はんだの歴史
はんだの歴史は古く、人類が金属を使い始めた青銅器時代にまでさかのぼると言われています。最近の研究では紀元前3000年頃のメソポタミアで銅器に銀の取手を付けるのに「Ag-Cu系」や「Sn-Ag系」のはんだが用いられたことが明らかになっています。
また、ローマ時代には、すでに今日では一般的となっている「Sn-Pb系」はんだで水道管が接合されており、その実物が大英博物館で保存されています。
このように金属の接合方法として人類の生活を支えてきたはんだは1960年頃から大きく発展し、従来の手付から、表面実装により大量生産を可能にする接合材として新たな歩みをはじめました。
なぜ、鉛フリーはんだが
必要だったのか?
このように長い歴史を持つはんだですが、その合金組成は「Sn-Pb系」が主流でした。しかし、鉛の有毒性が明らかになると、鉛を含むはんだも地球環境を汚染する物質とみなされるようになりました。そして世界に先駆けてEUが鉛などの有害物質の使用規制に乗り出します。
・「WEEE指令」(廃電気電子機器指令=2005年8月13日施行)
・「RoHS指令」(特定有害物質使用制限指令=2006年7月1日施行)
このふたつの指令は有害物質の使用を規制するもので、施行後は、当時一般的に使用されていた「Sn-Pb共晶」はんだが使用できなくなるため、「Sn-Pb」に代わる「鉛フリーはんだ」の開発が急務となったのです。
鉛フリーはんだの開発と
「SN100C」の誕生
欧米では早くから鉛フリーはんだの開発が進められていましたが、実用化には至りませんでした。当社もその流れに遅れまいと開発に取り組んでいましたが、鉛系はんだ並みの性能や作業性を持った合金はすぐには完成しませんでした。
当時のことを西村哲郎社長はこう記しています。
当時、私は鉛フリーはんだの開発に明け暮れていました。Sn-Cu系はんだの改良に取り組んでいたのですが、上手く行かず半ば諦めかけていた時のことです。ある夜、食事から戻って実験室に入ってみると、バーナーの音が聞こえない。いつの間にか火が消えてしまっていたのです。坩堝の中ではんだはすっかり冷え固まり、火が消えてからかなり経っていることが分かりました。「あぁ、また思うように行かなかったか…」と嘆きながら、何気なしにもう一度坩堝の中を見た時です。私は思わず「あっ!」と声を上げました。固まっている合金の表面が、いつも見る平らでザラザラしたものではなく、まるでSn-Pbはんだのように中央に窪んだ引け巣ができているではありませんか。合金を分析してみると、微量のニッケルが溶け出していることが分かりました。今度は意図的にニッケルの量を調整し、検証実験を行いました。すると、冷えてくるに従って、またスーッと引け巣が発生するではありませんか。そして表面は美しく輝いている。今までになかった全く新しい「Sn-Cu-Ni」系鉛フリーはんだが誕生した瞬間でした。
こうして誕生した「Sn-Cu-Ni」系鉛フリーはんだは「SN100C」という商標を得て、1999年3月に松下電器のビデオ用基板の製造ラインに初採用されました。その後、今日に至るまで、「SN100C」は国内外の多くの電子機器メーカーでご愛用頂いております。